雨まじりの午後,僕は研究室で慌ただしい雑用を一段落させて,
遅めの昼食をとりに学内のキャフェテリアへ向かったのだけれど.
道すがら,空き教室で一人で勉強している,赤と黒の市松シャツを着た
直毛黒髪の長い女性を見かけると,僕は,濃度勾配でもあるかのように,
その部屋に入ってしまったのだ.
「やあ,後期も始まったばかりなのに,熱心ですね」
「はぁ...」
ため息をつく女性.英語の分厚い専門書を脇にしているので,ひと目で
(ははぁん? 厳しい教授にあたって,さっそくデカいレポートを出されたか)
と察しがついた僕は,
「英語なら手伝えるよ! なにせ僕は,年に二回は国際会議で論文発表をしてるし,
普段も,英語の論文を読んだり,時には書いたりだってするんだぜ?」
と,純朴な気持ちで手伝いを申し出たのだ.
「え,本当ですか? じゃあこれ...」
そういって女性が見せてきた問題は,なあに,鼻で笑っちゃうくらいの
カーンタンな問題だったのだ.それを1分で答えを教えてあげると,彼女は目を丸くして
まるで仏でも見るように僕を見つめたのだ.
「僕の顔になにかついているかい?」
「あっ...」
頬を赤らめる彼女.
「課題も済んだなら,ちょっと美味しいの,入れてかない?」
「はい!」
そして僕等は,連れ立って大学のコジャレたキャフェに出向いて,
オーガニック・パンプキンパイにシナモンティーを仲間に,楽しく話すってことに
なってしまったのである.
「へえ,音楽をやられてるんですね!」
「ブルーグラスをやってるんだ」
「ぶるーぐらす?」
僕は衝撃を受けた.この世に,ブルーグラスを知らない人間が居たなんて!?
清純派の箱入り娘だって,度が過ぎてるぜ!
「ブルーグラスを知らない?信じられないな」
「ブルーグラス(Bluegrass music)は、アメリカのアパラチア南部に入植したスコッチ・アイリッシュ(現在の北アイルランド、アルスター地方にスコットランドから移住した人たち)の伝承音楽をベースにして1945年末、ビル・モンローのブルー・グラス・ボーイズにアール・スクラッグスが加わってから後に発展したアコースティック音楽のジャンルなんだ*1」
「ビル・モンローは本当に最高だよ.あのハイロンサムな歌声を聞いているだけでエクスタシーを感じてしまうくらいなんだ」
「そして特筆すべきはアール・スクラッグスというバンジョー弾きなんだ」
「3つの指を使って分散和音を素早く弾くという,バンジョーのサスティーンが短いというある意味での弱点を逆手にとった奏法を編み出しただけでなく,それをほぼ完成形に発展させてしまった,いわば神のような存在なんだよ」
「そしてそのバンジョーという楽器を弾いているのが,ぼくさ!」
「バンジョーというのはアフリカのアコンティンという楽器が元祖とされている」
「アパラチア山脈で奴隷として働かされていたアフリカ系黒人がこれに似せた楽器を作り,演奏したのが原型なんだ」
「日本にも,ペリー来航の時点で幕府役人をもてなすためのショーで初上陸していたんだよ」
僕の目の輝きが増すにつれて,彼女の目はどんどん死んでいった.
僕が様々なバンジョー弾き,フォーク畑のピートシーガー,鬼才ドンレノの活躍,JDクロウ,アレンシェルトン,エディアドコック,アリソンブラウン,ノームピケルニー,ビルキース,アランマンデ,カールジャクソン,ソニーオズボーン,スティーブマーチン,ビルエマーソン,ビルノフ,ジョンハートフォード,スコットベスタル,ロンブロック,ベラフレック,そして新時代の神遠山たくや=とおるまで話した時には,彼女はすでに今流行のスマートフォンってやつを弄っていて,目は1ドル札のピラミッドのように虚ろだった.
やっぱり,ブルーグラスみたいな芸術性の高い音楽は,
僕のような崇高な神に近い人間にしか良さが分からないのかな.
それとも僕がおかしいのかな?
それとも僕がおかしいのかな?
いいやそんな事はない筈だ 僕は神なんだ
ただでさえ賢いのにまた新たな真理を見つけて一段と賢くなってしまったぼくは,
ただでさえ賢いのにまた新たな真理を見つけて一段と賢くなってしまったぼくは,
何も言わず,颯爽とその場から離れて研究室に戻ったのだ.
パンプキンパイとシナモンティの代金は払っていないが,お客様が神様なのだ.払う必要はない.
このブログの読者は,そして世間一般のほとんどの皆様は,間違いなくブルーグラスの良さについて分かっているにちがいない.良さが分からない人間が居るなんて世も末だな,ということを嘆くためにこの記事を投稿したのだ.
そんな,ブルーグラスの良さを分かっている世界中の紳士淑女の皆様,
そして,今まで奇跡的偶然にも,ブルーグラスを聞いたことがないというお方々,
10月12日日曜日,三連休の中日,銀座ロッキートップに来て下さると幸いだ.
そして,今まで奇跡的偶然にも,ブルーグラスを聞いたことがないというお方々,
10月12日日曜日,三連休の中日,銀座ロッキートップに来て下さると幸いだ.
貴方の崇高さを持って良さを再確認していただきたい.
僕の願いはそれだけなんだ.
*1 wikipedia: ブルーグラス http://ja.wikipedia.org/wiki/ブルーグラス
Sincerely,
Tsubasa
(明日ゼミ発表なのに研究は全く進んでおらずスライドを1文字たりとも作っていないバンジョー弾き
)
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プロフィール
HN:
plunkers
年齢:
13
性別:
非公開
誕生日:
2011/04/29
自己紹介:
【plunkers】
・つばさ: 5-String Banjo (†中二病†)
・きき: Wood/Electric Bass
・すーじー: Acoustic Guitar
・まーしー: Electric Guitar (どぶろひかないぞう)
・ふえ: Flat Mandolin
・たみー:Electric Bass (リザーブメンバー)
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